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人は働きすぎるとやりがいジャンキーになる

1ドルの報酬(先行研究)

 ”1ドルの報酬”と呼ばれる1959年のスティンガー、カールスミスの研究がある。

 ”健常者に単純なつまらない仕事を与え、20ドルの報酬を与える群と1ドルを与える群の二つに分け、仕事が終わった後に次の被験者に「仕事は面白かった」と伝えてもらう。その後、仕事についてのアンケートを取った。20ドルの群は仕事をつまらないと答え、1ドルを与えた群は、仕事に面白さを感じていた。”

 これは”不十分な正当化の効果”とも呼ばれ、1ドル群は無意識下にやりがいを感じることで、低い給与で働いている事実から精神の調和を保っていると考えられる。逆に20ドル群では、つまらない仕事をするに足る給与を得ているため、面白く感じなかったと考察される。

 同様に、低賃金のみでなく、あらゆる悪条件にも仕事に対する面白さが代償として生じる。

 

人は働きすぎるとやりがいジャンキーになる

 低賃金・サービス残業・ハラスメント行為・労働時間外での研究や勉強の強要・症例発表などは日本では一般的となっている。(”カロウシ”という言葉は海外でも通じるほどに)そして、不当な労働環境に対し、”やりがい”という形で環境適応していく。

 やりがいジャンキー(以下、YJ)は馬車馬のように働いてきた上の世代だけでなく、私達でも成り得る。時間外(サービス)労働や過剰な仕事量などが続くと、徐々に仕事に誇りを持ち、もっと仕事をしたいと思い始めてしまう。

 

YJは職場のブラック化を招く

 日本では労働時間に関する法的介入が弱いため、残業代を請求せずに長時間労働することが可能があります。YJはわざと残業申請をせずに、残って仕事をしています。企業側としては金を出していないのに勝手に働いてくれる職員を評価し、管理職側も”残業せず()に相当な仕事量をこなしている人間”を高く評価しています。そこから派生し、近年では”遅くまで残っている”だけで評価する傾向があります。不思議と管理職たちと遅くまで残っていると、妙な一体感がでてくるため、戦友のように仲間意識が芽生え、評価が高くなりやすいことがあります。

 ”仕事=やりがい”のYJはやがて、残業や過酷な労働を周りにも強いて行きますし、企業側もサービス残業で賄われている仕事量を現在の人数で実施出来る前提でノルマを決めていきます。YJがサービス残業や過酷な労働をこなすほど、ノルマは高くなるのです。

 YJは転職しても残業の申請はしないため、どこにいってもノルマを上げ続ける。労働者の敵でしかないのです。

 

YJはやがて鬱になる

 本人は仕事に不満はないと認識していても、寝不足や過労・食生活の乱れに付随する、健康問題が鬱につながるのです。自殺の原因に関するデータでは勤務関係は6%、経済・生活問題31%、健康問題40%を含めると77%となります。

 日本の自殺者数は世界でG8の中で第2位(1位はロシア)と高い水準を保っています。日本人の遺伝子が鬱になりやすいという前提もあるでしょうが、アメリカの2倍、イタリアやイギリスの3倍となっています。

  

最後に

 やりがい・報酬のバランスは難しい問題ではあるが、過度のやりがい搾取は健康問題から少子高齢化問題まで影響があると考えている。求人情報に虚偽の内容まで書いて入社してから、条件が違ったり。。現在の若手でも自ら進んで残業代を取らない人材がいることで職場のブラック化が進んだりと。。大変根深いものがある。

 私が提唱しているのが、離職率が高い企業の税率を上げることである。非常にシンプルな働き方改革である。一刻も早い対応を願う。